ペリネイタルロスとは?孤立しがちなグリーフ(悲嘆)に寄り添う私の経験

「おめでとう」と言われるはずだった未来が、ある日突然、音を立てて消えてしまう。 流産や死産、新生児死など、周産期をめぐる赤ちゃんの喪失 ――――「ペリネイタルロス」。

およそ6〜7人に1人の女性が経験していると言われる決して少なくない現実であるにもかかわらず、その深い悲しみ(グリーフ)は、いまだ社会の中で置き去りにされがちです。

周囲に打ち明けられず「どうして私だけこんなに苦しいんだろう」と一人でふさぎ込んでしまったり、一番の理解者であるはずのパートナーとの「悲しみの温度差」に傷つき、孤独を深めてはいませんか?

この記事では、ペリネイタルロスがもたらす心身への影響や、男女によるグリーフの違いといった客観的な事実をお伝えするとともに、同じ痛みを経験した私自身のリアルな葛藤と、そこから見出した「心の救い」について綴りました。

今、ひとりで涙を流している方へ。その赤ちゃんへの大切な想いは決して間違っていません。そして、決してひとりではありません。この記事が、あなたのグリーフの正しい理解と共に、「ひとりじゃないんだ」という、安心に繋がりますように。


ペリネイタルロスとは

ペリネイタルロスとは流産、死産、新生児死など、お産をめぐる赤ちゃんの喪失を指す言葉です。

日本は世界の医療と比較しても、新生児死亡率や母体死亡率も低く赤ちゃんが安全に生まれてくる国とされていますが、それでも妊娠した女性のおよそ15%が流産を経験し、年間約2万人の赤ちゃんが死産を迎えるとされています。

また出産を終えた後も、年間約1000人の赤ちゃんが新生児のうちに亡くなっています。また、厚生労働省の報告によると年間12~13万件の人工中絶が行われているというデータがあります。


その先には、我が子を失ったことによる激しい自責の念や、言葉にできないほどの深い喪失感、すなわち「グリーフ(悲嘆)」が待っています。しかし、子育て中の産後ケアのサービスやその助成は進む一方で、流産、死産、新生児死の場合は具体的なケア等が確立されていない状況です。

国も近年、自治体に向けた相談支援事業などを推進し始めてはいるものの、地域や医療機関によってサポートの手厚さに大きな格差があります。ペリネイタルロスを経験した女性やその家族へのグリーフケアについては、まだ課題が残っているのが現状です。


このように社会的な関心の高まりや認知が足りない現状が、ペリネイタルロスを経験した女性が周囲に語ることを難しくさせ、結果として1人で抱え込む原因となっています。


また、実際に赤ちゃんとのつながりを心身で感じていた母親と、パートナーとの間ではグリーフの感じ方や深さに違いが生じやすいとされており、夫婦間でも悲嘆の温度差に苦しむケースが少なくありません。

「私だけどうしてこんなにも寂しいのか」

「取り残された気分」

といったように、誰にも言えず一人でふさぎ込みがちになってしまいます。



グリーフについて

グリーフとは、大切な存在を失ったときに生じる心や体に起きる自然な反応のことであり、なかでもペリネイタルロスによるグリーフは、周囲や社会に認められにくい「社会に認められにくいグリーフ(悲嘆)」と言われています。

その大きな要因は、亡くなった赤ちゃんの存在を知る人が限られている点にあります。ある程度育った子どもや大人が亡くなった場合、家族だけでなく友人や周囲の多くの人が共にその死を悼み、悲しみを分かち合うことができます。

しかし、流産や死産の場合、その存在を知っているのはごくわずかな身内のみです。一緒に悲しみを共有し、支えてくれる人が周囲にいないことが、母親の孤立を深める原因となっています。

さらに、一番身近であるはずの夫やパートナーでさえ、「赤ちゃんがいた」という実感が薄い場合があり、女性との間に温度差が生まれてしまいます。誰にも気づかれず、分かち合ってももらえない悲しみは、当事者を「私だけがこんなに苦しんでいる」という深い闇の中に置き去りにしてしまうのです。


男女のグリーフ表現の違い

前述したように、女性はお腹の中に命を宿し、体と心の変化を経て「母親になった」という決定的な実感を持つ一方、男性は体感がないぶん実感を得にくく、比較的早く前向きになりやすい傾向にあります。

この差は、グリーフの表現の違いとしても現れます。女性は涙を流し、悲しみを言葉にして共有したいと願うことが多いのに対し、男性は仕事に没頭したり、気分転換をしたりして活動的に悲しみを紛らわそうとする傾向があります。そのため、女性が深い悲しみに暮れる傍らで、男性がすでに元の生活に戻っているように見え、「悲しみの温度差」が生まれてしまうのです。

しかし、これはパートナーにも悲しみがないわけではなく、表現方法が異なるだけで、お互いに傷ついている事実があるのは確かです。この感じ方の違いを知ることは、夫婦間のすれ違いや孤立を防ぐための重要な一歩となります。


悲嘆反応(グリーフ)の症状について

  • 深い悲しみと喪失感
    妊娠が分かった瞬間から、母親と赤ちゃんの心身の結びつきは始まっています。「赤ちゃんに何もしてあげられなかった」「会えなかった」という思いから生じる喪失感は、周囲の想像を絶するほど深いものです。未来への期待や準備が大きかった分だけその穴は大きく、周囲にその痛みを理解されないことが、さらに孤独感を深めてしまいます。

  • 自分を責める罪悪感
    多くの女性が、流産や死産を「自分の責任だ」と感じてしまう傾向にあります。「あの時の行動がいけなかったのか」「もっと気をつけていれば救えたのではないか」という激しい自責の念は、医療的には防げない仕方のないことであったとしても、母親の心の中で大きな苦しみとなって居座り続けます。

  • 産後状態の身体と情緒の不安定さ
    見落とされがちですが、流産・死産であっても母親の身体は「出産を終えた産後状態」にあります。ホルモンバランスが急激に変化する中、不眠、食欲不振、過呼吸や胸の締めつけ感といった強い身体的症状が現れることも少なくありません。こうした心身の負担が、感情を不安定にさせる要因となっています。




グリーフの経過について

グリーフの経過や回復のスピードは人それぞれ異なります。特に働く女性の場合、現行の制度が心の回復の障壁になることもあります。

労働基準法などの法制度上、妊娠12週未満で流産となった場合はすぐに仕事への復帰を求められることが多く、12週以降で死産となった場合は法律に基づき8週間の「産後休業」を取得することになります。

しかし、たとえ8週間が経過して回復したように見えても、心の回復が追いついているケースは多くはないでしょう。

周囲は「時間が経てば前を向ける」と思いがちですが、実際には時間が経過してから遅れて強い悲しみに襲われることも少なくありません。

仕事に没頭することで一時的に悲しみから距離を置く選択をする人もいれば、元気になったように見えても、入院した日や出産予定日、街で赤ちゃんや妊婦さんを見かけた瞬間に悲しみを思い出してしまうこともあります。

ペリネイタルロスを経験した人の悲しみは、時間が解決して消えていくものではありません。「忘れて前に進む」のではなく、わが子への愛おしさや悲しみという大切な感情を、心の中に抱えながらこれからの人生を生きていくことになります。




私なりのグリーフ

筆者である私もまた、当事者のひとりです。死産後、私は家族のケアや元の生活に戻ることに必死で、自分の悲しみと向き合うことを後回しにしていました。

心に明らかな異変が現れたのは、死産から半年が経ち、本来の出産予定日を過ぎた頃です。


「もし元気に産んであげられていたら…」

「今頃は一か月健診だったな」

「夫と育休をとって子育てに励んでいたはずなのに」

「赤ちゃんがいたらもっと和やかだったのかな」

思い描いていた未来と、赤ちゃんがいない現実のギャップに苦しみました。


出産直後はたくさん泣き、夫にも支えてもらいましたが、半年も経つと「なかったこと」のように日常が流れていきます。その現実に耐えられず、夫婦喧嘩が増え、上の子たちにも必要以上に怒ってしまう日々が続きました。

ある夜、心の限界を迎えた私は、布団の中で涙が止まらなくなり、たまらず夫を起こしました。
しかし、夫から返ってきたのは「(育児に)いっぱいいっぱいだったんだね」という言葉。その瞬間、「そうじゃない。この人も分かってくれないんだ」と、愕然とした思いを抱いたのを覚えています。


そこから一度は殻に閉じこもりましたが、「このままではいけない」と、私は勇気を出して夫に文字通り話があると切り出しました。


「ずっと寂しかった。あなたと私が全然違う場所にいるみたいで、一人で抱え込むのが苦しい」


自分の気持ちを言葉にするまでに半年を要し、話す内容を事前にメモに書き起こすほど、私にとっては決死の覚悟でした。

私の拙い言葉を泣きながら聞いていた夫は、驚いた様子で

「そんな風に思っていたなんて気づけなかった。自分は、考えたら余計に悲しくなるから、あえて意識して考えないようにしていたんだ」と本音を話してくれました。

私たちはここで初めて、お互いの「悲しみの表現方法」が違っていただけで、わが子を想い、悲しんでいる気持ちの根っこは同じだったのだと知り、安心することができたのです。



私の場合、21週での死産だったため、事前に妊娠を伝えていた周囲への報告も必要でした。腫れ物のように扱われる感覚のなかで、救いとなったのは長女の友人のママ友でした。

死産を報告したとき、一緒に涙を流し、「実は私も、同じ経験をしたの」と打ち明けてくれたお母さんが2人もいたのです。どんな慰めよりも、同じ痛みを経験した人たちの「共感」が、何よりも私の心を軽くしてくれました。


時間が経った今でも、私は月命日が来るたびに泣いてしまうし、時には、何も手につかなくなるほど悲しみに引き戻される日もあります。お世話になった病院の近くを通るだけで、今でも胸がキュッと締め付けられるような感覚にも襲われます。




心の回復は一直線ではなく、寄せては返す波のようだと言われています。あの日夫と痛みを分け合えたこと、そして同じ経験を持つお母さんたちが共に涙を流してくれた記憶が、私を支えています。傷が完全に癒えることはなくても、「私は一人じゃない」と心から思えるようになったのです。

悲しい気持ちは、誰かに共感してもらうことで、少しずつその色を変えていくと私は信じています。

内に秘めた痛みを外に向けて開くことは、本当にとても勇気がいるアクションです。私がそうでした。悲しみの大きさや、そこから立ち上がっていくスピードは人それぞれ違っても、あの子を想う愛おしさや、あの子が生きていた証を大切にしたいという願いは、きっとみんな同じだと思うんです。

あなたの心の中にある、その大切な赤ちゃんへの想いを、どうか一人で抱え込みすぎないでほしいと願っています。



【KEIKI ROOM】が目指す場所

そんな風に孤立しがちな当事者たちが、少しでも心を軽くし、そのままの姿でいられる温かい居場所を作りたいという想いから、【KEIKI ROOM】を発足させました。ペリネイタルロスを経験された当事者の方だけが参加できるコミュニティを作っていく予定です。

この場所は、参加するメンバー全員が安心して心を開き、発言できるように「当事者のみの空間」とすることにこだわっています。

普段使っている身近なSNSや、家族や友人の前ではどうしても気を遣って投稿できないような、日々のちいさな想い、不意に押し寄せる悲しみ、赤ちゃんへの想い。

それらをありのままに発信し、お互いにそっと寄り添い合える、そんな温かい場にしたいと思っています。

立ち上げたばかりの小さなコミュニティです。最初は私1人のつぶやき部屋のようになっているかもしれませんが、覗きに来るだけ、気持ちをつぶやくだけそんなメンバーさんを歓迎します。

悲しみは消えなくても、分かち合うことで力に変わることがある。【KEIKI ROOM】は当事者同士で支えあえる空間。一人で抱え込まずに、気が向いたタイミングでここへお越しください。

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