前回は、周産期に赤ちゃんを亡くす「ペリネイタルロス(周産期喪失)」についてお話ししました。
「どうして私が」
「あのとき、もっとこうしていれば」……。
そんな強い自責の念や、深い悲しみの中にいる方もいらっしゃるかもしれません。
涙が止まらなくなったり、反対に感情が失われたように何も感じられなくなったりするのは、決して異常なことではありません。それほどまでに、大きな喪失と向き合ってきた証拠です。
今回は、その深い悲しみ(グリーフ)を抱えながら、どのようにこれからの日々を過ごしていけばよいのか。心をいたわるための「周産期におけるグリーフケア」についてお伝えします。
グリーフケアとは
「グリーフ(Grief)」とは、大切な人や身近な存在を失ったときに生じる、深い悲しみや切なさ、怒り、無力感といった「心と体のさまざまな反応」のことです。そして、その悲しみに寄り添い、「忘れる」「乗り越える」ということではなく、「悲しみと共に生きていけるようサポートすること」をグリーフケアといいます。
グリーフケアで最も大切なのは、「悲しみを早く忘れること」や「無理に元気になること」を目指すのではない、ということです。
大きな喪失を経験したとき、心は深く傷つき、戸惑っています。その悲しみを無理に抑え込んだり、忘れようとしたりするのではなく、自分の自然な感情として受け止め、時間をかけて整理していく。そのプロセスのすべてがグリーフケアなのです。
また、ペリネイタルロス(周産期の喪失)におけるグリーフには、ほかの喪失とは少し異なる特徴があります。心と上手に付き合い、また周囲が適切なサポートを行うためにも、まずはペリネイタルロスならではの特徴を理解することが重要です。
周産期の喪失(ペリネイタルロス)における悲しみの3つの特徴
ペリネイタルロスにおけるグリーフ(悲嘆)には、他の喪失とは少し異なる、特有の特徴があります。
1つ目は、周囲に気づかれにくい「孤立した悲しみ」です。 お腹の中にいた時間の長さに関わらず、親にとって赤ちゃんは愛おしい我が子であり、確かに存在していた小さな命です。しかし、妊娠初期の段階では、まだ周囲に妊娠を伝えていないことも多く、誰にも相談できずに一人で抱え込み、孤立しがちになってしまいます。 また、週数が進んでからのお別れは、身体的な負担も非常に大きくなります。しかし、周囲に同じ経験をした人が少ないため、どう声をかけていいか分からず、あえて話題を避けられてしまうことも少なくありません。例えば、大人の身内を亡くした場合は、友人や職場の人とも悲しみを共有し合えますが、周産期の喪失は周囲との間に壁ができやすく、その「触れられないこと」がかえってお母さんたちを苦しめてしまうのです。
2つ目は、強い自責の念です。 特にお母さんは、「自分のせいで」「あのとき、ああしていれば違っていたのではないか」と、自分を責めてしまいがちです。しかし、多くは医学的な理由によるものであり、お母さんのせいでは決してありません。
3つ目は、家族間での「心の温度差」です。 お母さんとパートナー(お父さん)とでは、悲しみの表現方法やタイミングが異なることがよくあります。「相手が悲しんでいないように見える」と、家庭内での温度差や強い孤独感を感じてはいませんか? でも、パートナーのその姿は、赤ちゃんを愛していなかったからではありません。男性と女性では、悲しみへの向き合い方や表現方法が根本的に違うのです。 女性が悲しみを涙や言葉で表すのに対し、男性は涙を流す代わりに、仕事などの「行動」に没頭することで、なんとか痛みを紛らわせようとする傾向があります。男性は、悲しんでいないのではありません。あえて「いつも通りの日常」をこなすことで、あなたと家を守ろうとしているのです。 表現の形が違うだけで、我が子を失った痛みの深さは同じです。
今日からできる、自分で自分の心に寄り添う方法
グリーフケアには「正しい答え」はありません。まずは、ご自身の心と体を最優先に考えてみてください。
感情に蓋をしない
「いつまでも泣いていてはいけない」と思う必要はまったくありません。泣きたいときは思いきり泣き、怒りや理不尽さを感じたときは、その感情をそのまま認めてあげることが大切です。悲しい、寂しい、つらい、悔しい……。どんな感情も赤ちゃんを深く愛しているという証拠です。
そして、できるだけその思いや感情を、言葉にして「共有する」ことも心のケアに繋がります。
例えば、パートナーに「なぜ私だけこんなに悲しいの? あなたはもう悲しくないの?」と、心の中にある不安や疑問を打ち明けてみると、お互いの「悲しみの表現の違い」に初めて気づけたりするきっかけにもなります。
パートナーに話しづらい、あるいは共有が難しいと感じる場合は、ひとりで抱え込まずに、病院の医師や助産師に話を聞いてもらうことも一つの手段です。
また、同じ周産期喪失を経験したお母さんやお父さんは、SNSやコミュニティなどで「天使ママ」「天使パパ」と呼ばれています。同じ経験をした当事者同士だからこそ、言葉にしなくても伝わる感情があります。そうした場所で気持ちを共有し、共感し合えることも、心が前を向くための大きな一歩となります。
つらい情報から距離を置く
街で見かける妊婦さんや赤ちゃん、SNSにあふれる子育ての報告がつらいときは、スマホを閉じ、外出を控えても大丈夫です。今のあなたにとって、自分を守るための「心のディフェンス」はとても大切なことです。
もしかしたら、「他人の妊娠や出産に『おめでとう』と言えない自分は、ひねくれた冷たい人間なのかな……」と、自分を責めてはいませんか?
それは決して、心が冷たいからではなく、これ以上傷つかないように、心が一生懸命に自分を守ろうとしている、とても大切な『心の防衛反応』です。
心理学では、これを「逃避」や「適応」のための心の働きと呼びます。強いショックを受けた脳が、これ以上のダメージを避けるために刺激から距離を置こうとする、人間に備わった本能的で自然なシステムなのです。
あなたの性格がゆがんでしまったわけでも、ひねくれてしまったわけでもありません。むしろ、あなたの心が「今は傷つきたくない」と正常に機能している証拠です。まずはその頑張っている自分の心に、寄り添い、認めてあげることが大切です。
大切なのは、悲しみを「乗り越える」ことや「忘れる」ことではありません。 わが子への愛をしっかりと胸に抱き、悲しみと共存しながら、自分らしく生きていくこと。それが、本当の意味での心の回復に繋がっていきます。
赤ちゃんの存在を形にする
名前をつけてあげる、手形や写真を大切に保管する、お花を飾るなど、赤ちゃんが「確かにここにいた」という証を大切にすることも、心の整理を助けてくれます。
最近では、赤ちゃんのためのかわいらしいミニ骨壺や、手形・足形を使ったアート、いつでも一緒にいられる遺骨ペンダントなど、さまざまなメモリアルグッズもあります。お仏壇のような形式にとらわれず、リビングの一角に小さなスペースを作って、赤ちゃん用のお菓子やミルクをお供えするのも素敵なアイデアです。
また、誕生日や出産予定日に、絵本やおもちゃをプレゼントして家族でお祝いするお母さん、お父さんもいらっしゃいます。
実は、お花やお供え物を飾ることは、亡くなった方のためだけのものではないといわれています。
赤ちゃんへのプレゼントや思い出を「カタチ」にすることは、残されたご家族の心を癒やすための大切なグリーフケアでもあるのです。形式にとらわれず、あなたが「これをしてあげたいな」と思うことを、ぜひ自由な形で取り入れてみてください。
周囲のサポートや専門家に頼るという選択肢
話せる相手にだけ、話せる分だけ話す
あなたの悲しみを決して否定せず、アドバイスをしようとするわけでもなく、ただ「つらかったね」「大変だったね」と静かに聞いてくれる家族や友人はいますか? もし心当たりがあるなら、その人にだけ、あなたの胸の内を少しずつ話してみるだけでも、心の中に詰まった澱(おり)がほんの少し軽くなることがあります。 もちろん、無理にすべてを話す必要はありません。「今日はここまで」と、あなたの心が許す分だけ、気が向いたときだけで大丈夫です。
専門家によるカウンセリング
悲しみが深すぎて眠れない日々が続いたり、体調がすぐれず日常生活を送るのが難しかったりするときは、プロの力を借りる手段もあります。 臨床心理士、またはグリーフケアの外来を設けている医療機関など、専門的なサポートを頼ることも検討してみてください。誰にも言えない苦しみを、守秘義務のある安全な空間で専門家に受け止めてもらうことは、心が現実と向き合っていくための大きな支えになります。
当事者会(ピアサポート)に参加する
同じようにペリネイタルロスを経験したお母さん・お父さんは「天使ママ」「天使パパ」と呼ばれています。 この喪失の痛みを本当に理解できるのは、やはり同じ経験をした仲間(ピア)です。「周りの人に話しても、どこか気を遣われてしまって孤独を感じる」という方こそ、当事者同士が集まるコミュニティに触れてみてください。「この苦しみを、言葉にせずとも分かってくれる人がここにいる」と感じられる場所は、あなたの心を包み込む大きな救いになります。
大切な赤ちゃんへの想いを残す場所「KEIKIROOM」
私たちKEIKI ROOMもまた、ペリネイタルロスを経験された女性が、ありのままの自分でいられるための安心なコミュニティです。
ここでは、自分の気持ちを無理に隠す必要はありません。涙を流しても、言葉がうまくまとまらなくても、あるいは少し前を向けるようになった時でも、誰もあなたを否定することはありません。
KEIKI ROOMはオンラインの空間なので、24時間いつでも、あなたの好きな時に気持ちを発信することができます。「オフラインのお話会に行くのはまだ勇気が出ない」「体調がすぐれず、外出するのが難しい」という方でも、ご自宅から気軽にご参加いただけます。
イメージとしては、当事者の女性だけが登録し、見ることができる“鍵付きのSNS(Twitterのような空間)”です。もちろん、自分で発信しなくても大丈夫。ほかの天使ママさんの投稿を目にして、「私だけじゃないんだ」と共感したり、勇気をもらったりするだけでも十分です。
赤ちゃんへの愛を優しく共有し、あなたのありのままの思いをそのまま残しておける場所。
参加をご希望される方は、ホームページトップの「参加アンケート」より、どうぞ安心してお申し込みください。
おわりに
グリーフ(悲しみ)の波は、ある日突然、小さくなるわけではありません。元気になったと思ったら、次の日にはまたどん底に突き落とされるような、一歩進んで二歩下がるような日々が続くこともあります。
それでも、それは心が一生懸命に現実を受け止めようと、歩んでいる証拠であり、それだけ赤ちゃんへの愛が深いということでもあります。
グリーフケアに期限はありません。焦らず、比べず、それぞれに合ったペースで。 あの子を想う優しさと共に、少しずつこれからの日々を過ごせることを祈って。


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